冬の1時限目だけの


私の席だけの特権。




「おはよ〜」

朝練が終わり、挨拶を友達にしたあと、自分の席に着いて下敷きでパタパタと仰ぐ。


冬の朝は寒いけど日中はポカポカとしていて
朝練なんてした後は結構暑くなる。


そんでもってカーテンは空気入れ替えのために全開。


でも私は閉めない。

その理由だってちゃんとある。





「起立、礼〜」


「「おねがいしまーす」」


授業開始から10分ほど

冬は日が高くなるのがとてもはやいと私は思う。

日差しもだんだん強くなり、暑さに耐えられなくなった私は斜め後ろを見た。



「須藤(スドウ)、閉めて」


小声で言う。


「やだ」


笑いながらカーテンを揺らす、須藤。


いつもと同じ。


澄み切った青を背にした須藤と向き合っていると切ないような嬉しいようなそんな気持ちになる。


拗ねたふりをして前を向く。


ノートのうえで黒い影が揺れる。


これは…きつね?


ぱっと振り向くと「コンコン」なんて口ぱくをして影で遊んでいた。


その後もふくろうだったり、うさぎだったり…


先生が黒板を書いてる間に窓際でひとり手を動かしている須藤を想像したらなんか笑えた。



次はなんだろう。


…ハートマーク。


消しゴムを囲むようにくっきりと刻まれた黒い影はハートを描いた。

何を思ったか須藤はすぐに手を引っ込めてしまった。


やめてよ。そんなことしたほうが、もっと意識しちゃうじゃん。


左耳にかけてた髪をおろす。


この顔の火照りは暑さのせい…そうだきっと。


もう一度だけと思って振り返ると目と目が合ってしまって恥ずかしくなったけれど


須藤は

「しゃーねえな」

と言ってカーテンを閉めた。


それでも少しだけできた隙間から降り注いだ光は

須藤の指先とペンを私のほうまで引き延ばした。


私はそのことを気にしながらノートの端に落書きをした。


…小さなハートマークを。