吉野(ヨシノ)先輩に彼女ができたのは文化祭の少し前。


夏休み、部活後に文化祭準備を手伝おうと思ったのがダメだった。

自分の教室に向かうとき。

向かい側斜め前にある吉野先輩の教室を通り過ぎながらチラリと見た。

吉野先輩居たりしないかな?

なんて思いながら。


すごい偶然なのか吉野先輩はいた。


「…っ!」


驚いたのは吉野先輩がいたからってだけじゃない。


先輩が笑う先、

同じ部活の先輩、優李(ユウリ)先輩がいたから。


運動部だから部活中はポニーテールをしている優李先輩が、今は長い黒髪を揺らして笑ってる。


教室の窓際で話す二人は

悲しいくらい画になった。




「お前最近優李ちゃんとどうなんだよー」

渡り廊下で吉野先輩と先輩の友達が話してるのが聞こえた。

「どうって…いい感じ?」


「はー?うぜぇーー!」


照れたように首を傾げるその姿にも、まだ、ドキドキする私は病気にでもなってしまったのだろうか。

でも前までなかった。

ドキドキしたあとに胸が痛くなることなんて。


それでも。


「あ、杏李(アンリ)ちゃん、おはよ」


先輩は気付くと変わらず声をかけてくれる。


「…吉野先輩」

「ん?」

「お姉ちゃん…優李をお願いしますね」

「おう」

少し、ほんの少しだけ嬉しかったのは、

先輩の好きになった人が

お姉ちゃんー優李先輩だから。

小さい頃から似てると言われてきた姉妹だったから。