「千秋(チアキ)くん」
前の席の千秋くんは、好きになったときから既にあの子のものだった。
「なに」
知らない人よりも親しい人には無愛想な千秋くんは滅多に笑わない。
「なんの季節が好き?」
「えー、何急に」
そう言って興味無さそうに前を向いてしまう。
「いいじゃーん、なんとなくだよー」
「えー、んー…」
前を向いててもちゃんと話してくれるところにやっぱりキュンとしてしまう。
「秋かな?」
「…千秋くんだけにね」
「…」
「…」
いくら笑わない千秋くんを笑わせたいからってそれはなかったなあ、なんて腕を組んで机に伏せてると
「…ぷっ」
肩を小刻みに震わせてる千秋くん。
「笑っちゃったから千秋くんの負けだよ」
「なんだよそれ、ばーか」
そう言って頭をぐしゃぐしゃにされちゃう。
千秋くんの好きな髪型はショートヘアで
くせっ毛の私は毎朝セットが大変だっていうのに
…嫌じゃないけど。
でも。
「千秋、帰ろ〜」
放課後になって他クラスの彼女さんがマフラーに顔をうずめながら教室に入ってくると
今日も私の胸は痛い。
同じショートヘア。
でも元々ストレートの彼女の髪は
私のように汚くない。
圧倒的に違う何かがあるのが嫌でも分かった。
そして。
「ちょっと待ってて」
そう言って照れたようにくしゃっとする千秋くんの笑顔を
私はまだ横顔しか見たことない。
きっとその表情(かお)は、
これから先も私に向けられることはない。
その代わり
「ばーか」
って言って私に向けるあどけないその笑顔は
きっと彼女は知らないだろうから
今日も私は千秋くんが好きだ。

