『美咲……。』

神楽くんの唇が
彼女の名前を呟く。


紡がれた名前が、あたしの心に刃の如く突き刺さる。



あの日
感じた息が止まるような、胸の痛み。

……本当は
気が付いていたのかもしれない。



あの時、もう既に
彼女が、神楽くんにとって

どんな存在なのかを。



気付かないフリをしながら
日々、傷ついてゆく胸を隠して。

だけど、真実から瞳を逸らしていたのは
誰でもない、このあたしで。





神楽くんの幸せを願える程
あたしは大人になれなかった。





だからなのかな。

あなたの幸せを祈れないから
神様は、あたしに意地悪なの?




もう、枯れたはずの涙は
心の中に大きなシミを作ったまま、消えそうにないみたい。