「兄様(あにさま)、お慕いしておりまする」

 胸に響く細い声がした。

 三人目、名をセツナと言った。

 地につく長く美しい髪を揺らし現王の前で頭を垂れた。

 「御美しや、セツナ姫。お待ちしておりました」

 セツナに性別はないが、男になることを鬼も人も望んでいなかった。

 男になれば新たな火種を生むだけと考えているためであった。

 美しき衣をまとったセツナを、玉座の隣に立っていた一族の代表が賞賛した。

 「御言葉ですが、わたくしはまだ‶姫”ではありませぬ」

 兄様と慕うコトワリ以外にはセツナは心を開くことはなかった。

 「近くで顔を見せてくれ、愛しき我がセツナよ」

 コトワリの手招きで玉座に続く階段を上る。

 長い衣から時折除く白い生足にやはり女に育つべきだと囁きが聞こえた。

 「兄様、ここは気高き一族の王の座。わたくしなどが来て良い場所ではありませぬ」

 玉座の前で跪いたセツナにコトワリはほほ笑んだ。

 「何を言う。私の横にはお前がいればいい」

 長い髪を撫でられ、膝に頭を乗せたセツナが薄くほほ笑んだ。

 「兄様、セツナは兄様をお慕い申しております」

 「わかっているさ」

 同族からは歓声が沸きあがり、セツナは鬼側につくとの認識が広がった。