「……減らん口が。いいか、お前には一億円分しっかり俺の為に働いてもらうからな。」
うっ、借金を突かれると痛い……
一ノ瀬司は斎藤さん事件翌日、きっちり借金を代わりに返済してくれたのだ。
「わかってますよ!私だって貴方のこと利用して……」
さっさとこの変な偽装結婚なんて終わらしてみせるんだから!
負けじと一ノ瀬司を見つめ返していると、今となってこの広い部屋に二人きりだということを思い出してしまった。
「あの、一言言いたいんですけど。もし、私に何かしたら……」
「………何か、とは何だ。」
………え?
何だって言われても……
思わぬ一ノ瀬司の返しにしどろもどろになっていると、彼は不敵に笑った。
「何だ、俺がお前に手を出すとでも思っているのか。」
どストレートな言葉に最早何も言えない。
「安心しろ。お前みたいな女に手を出すほど飢えてはいない。」
冷ややかな視線を私に向け、一ノ瀬司は淡々と言った。

