「ハナちゃんつい最近この店に入って来た新人なんですけど、実家が莫大な借金まみれで……それでバイト色々掛け持ちして夜もここで働いてるんですよ〜〜」
内緒ですよ、と上目遣いで言う女。
そんなプライベートなことをよくペラペラ喋れるんだな、このクソ女。
あの女も気を許して喋ってんじゃねぇよ…阿保が。
安藤梢の後ろ姿を見つめ、溜息をつく。
実家は確か鎌倉市にある鉄工所、だったか。
今朝の新聞で、相園モータースが大規模なリストラと発表していたな。
もしかしたら、相園の下請け会社が安藤梢の実家の鉄工所なのかもしれない。
この前、安藤梢の身元を調べたが下請けの仕事がなければやっていけるほど立派な鉄工所じゃないことがわかった。
莫大な借金まみれ……ね。
たかがバイトを掛け持ちした程度で返せるほどじゃないだろう。
似合わない格好して、ヘラヘラ笑いやがって。
何一つ似合ってない。
お前が俺の話を断らずに済んだら何とかしてやったのに。
つくづく、阿保な女だ。
「古賀、後は好きにしろ。俺は帰る。」
古賀にカードを持たせると俺は足早に店を出た。

