「あの……いまいち状況がわからないのですが…」
いきなり電話で呼ばれて
行ってみれば「結婚しろ」なんて言われても
パニックになるに決まってるじゃない!!
顔を引きつらせながら司さんを見つめると、彼は開いていた分厚いファイルを閉じた。
「何度言わせたら気が済む。社員としては不採用だが、婚約者としては採用してやると言ってる。阿保なのかお前は」
あ、阿保……!?
何で、今日知ったような人にそんなこと言われなきゃならないの!?
何とか怒りを押し消すようにギュッと拳を握りしめると、司さんはふと私の手元に目をやる。
「何か勘違いしているようだが、俺はお前を婚約者に採用してやると言っただけだ。」
ギュッと握りしめた拳を睨みつけるようにした司さんは正面でジッと私の瞳を捉えた。
「本気で結婚しろと言ってるのではない。婚約者のフリをしろと言っている。」
彼のその瞳は、何の感情も読み取れないような……
冷たい瞳だった。

