えっと……本当にこの前の男性…だよね?
恐る恐る、椅子に座ると男性は私の目を見つめた。
「何故ここに呼ばれたのか、分からないって顔をしているな」
「は、はい……電話で来て欲しいと言われただけなので。あなたが…司さん、ですか…?」
本当に何も知らないんだな、と言いたげな男性はやれやれと溜息をついた。
「一ノ瀬 司(イチノセツカサ)この一ノ瀬グループの御曹司だ。」
………へ?
お、おん、御曹司!?
私は驚いて思わず目を瞬かせる。
司さんはそんな私を一瞥して、何やらファイルのようなものをペラペラとめくった。
「安藤梢。明応大学4年。6月17日生まれ22歳。49社落ちの内定はゼロ。実家は神奈川県鎌倉市、鉄工所を営んでいる。今は友人片田紗栄子のアパートに居候……と、まあ、こんなもんか?」
な、何なのこの人……
エントリーシートにだってこんな個人情報書いてない。
紗栄子のアパートに居候って……
どうしてそんなプライベートなことまで!

