週末、私は司には内緒で大きなお屋敷に来ていた。



「さあ、どうぞこちらへ。旦那様がお待ちです。」



黒のスーツを着た執事らしき人が広い屋敷を案内してくれる。

ここはもしかしたら司の実家なのかもしれない。


連れてこられたのは分厚い扉の前。


黒のスーツを着た執事らしき人が分厚い扉のノックすると、中から受話器の向こうの声と同じ声がした。


促されるまま部屋に入ると、大きなソファーに一ノ瀬総一郎、司のお父様が座っていた。



「は、初めまして。安藤梢と申しま…」



「そういう堅苦しいのは置いといて。今日はなぜここに呼ばれたかわかるかな?梢さん。」



穏やかな口調なのに、どこか不穏をを漂う空気に私は息を飲んだ。



「わかっていないみたいだから単刀直入に言うよ。司と、離れてもらいたい。」



何も声を漏らす暇さえもなく、総一郎さんは口を開く。



「君との婚約は偽装だと知っている。大方、決められた相手と結婚するのが嫌な司が君に頼んだんだろう。だが、今になって私の元に会いにも来ない司が君と一緒になることを許して欲しいと言いに来た。」



………うそ。


あの司が?



「馬鹿馬鹿しい。君と一緒になってうちの会社に何のメリットがある?破産状態の鉄工所を助けるのがうちのする仕事ではない。司がやっていることはボランティアに過ぎない。違うかい?」


メリット……

確かにそう言われれば私と一緒になって一ノ瀬にはなんの利益もない。

逆にお荷物が増えるだけだ。