「ご挨拶遅れて申し訳ありません。私、一ノ瀬司と申します。」
彼はそう言うと、名刺を差し出した。
一ノ瀬グループの名前を見て目をお父さんは見開く。
「彼女には私の婚約者の振りをするといった無理な条件と引き換えに、私は鉄工所の借金を肩代わりしました。」
………え?
どうして、言っちゃうの…?
昔から付き合っていた陽介の振りをすればいいものの、偽装結婚のことなんか言ったら家族が一ノ瀬司のことをどう思うか……
それに、両親に挨拶しとけば偽装結婚だって今後周囲に疑われないだろうって言ってたくせに。
明らか、悪者になろうとする彼に胸がざわめく。
何で、嘘吐かないのよ……
「それは何だ、娘を借金のカタに無理矢理婚約者にさせたってことか!?」
お父さんは拳を震わせ、一ノ瀬司を睨みつける。
今にも手が出そうな雰囲気。
確かに、偽装結婚しろと、強引だったけど
このままじゃ、彼だけ悪者にされてしまう…!
違うの、誤解なの!
と立ち上がろうとしたとき、一ノ瀬司は私の右手を優しく包んだ。
まるで、『心配するな』と言ってるようで……
何で……
私に阿保、阿保言うくせに……
貴方の方がよっぽど阿保だよ……
ギュッと手を握り返すことしか、出来なかった。

