「確か、実家は鎌倉だったな。」
一ノ瀬司はジャケットを羽織ると私を見つめる。
「夕方までには帰る、準備しておけ。」
彼はサラッと言うと、リビングを出る。
………それって、一緒に実家に行ってくれるってこと?
私は慌てて彼の後を追う。
「あのっ、いいんですか…」
ちょうど、玄関に向かうと靴を履いているところだった。
「いいも何も、俺を利用しろと言っただろ。」
ふと、偽装結婚の契約を交わしたあの時を思い出す。
『お前はこの契約で借金返済の為に俺を利用しろ。その代わり俺もお前を利用する。』
もう十分、借金返済の為に利用させてもらったよ……
「それに、ご両親に挨拶しておけば、周囲に偽装結婚だと疑われにくい。」
彼は準備しておけよ、と言い残し部屋を出た。
これから私は家族に嘘を吐く。
ごめんなさい。
勝手にこんなことをする娘でごめんなさい。

