「もう司と知り合って8年にもなるわ。あの男の駄目な所も人間的に弱い所も全て見てきた。今更どうこうしようなんて思わないわ。ただ、今は彼の側で見守ることが私の出来ることだと思っているの。」
案外、あの人強がりだから、と麗香さんは俯いて微笑んだ。
「昔はあんな冷酷非情な人じゃなかったのよ?彼を取り巻く周りの環境が彼自信を変えた…なんだかんだ言って我儘し放題に見える御曹司も大変なのよ。」
麗香さんはチャペルやらの写真や書類を集めると腕に抱えた。
「これ、今後の予定の書類。私はこれから別の会議があるの。貴方からあの人に渡しておいてくれる?また今度、お茶でもしながらお喋りしましょ。」
彼女はファイルから束になった書類を私に手渡し、可憐に微笑んで颯爽と立ち去った。
綺麗すぎて近寄りがたいと思ってたけど、意外と気さくな方なのかも。
ふと、書類に目を移すと今後の予定がびっしりと詰まっていた。
"彼を取り巻く周りの環境が彼自身を変えた"
意味深な言葉に胸が騒めく。
当たり前だけど、私が知らない『御曹司の一ノ瀬司』を麗香さんや古賀さんをはじめとした社員の皆さんは知っている。
私は仮にも偽装結婚の相手だけど、一ノ瀬司のこと、何も知らないんだ。
ただの契約を結んだ相手。
そんな相手のことなんて知らなくていいじゃないか。
そう、心では思っているのに。
どこか言いようの無い気持ちでいっぱいだった。

