オフィスにラブは落ちてねぇ!!

「痛い!!痛い!!やめてくれ!!」

男は大袈裟なくらい痛そうに悲鳴を上げる。

その人はもう一度ギリッと強く男の手をひねり上げて、低い声で静かに言い放つ。

「2度とこいつに手を出すな。」

その大きな手から解放された男は一目散に逃げて行く。

背後から聞こえた聞き覚えのある声に、愛美は耳を疑った。

(え…?この声、まさか…。)

愛美はおそるおそる振り返り、背の高いその人をゆっくりと見上げた。

(や…やっぱりー!!)

そこには仏頂面の緒川支部長が立っていた。

「菅谷…こんな時間までこんな所で何やってんだ。」

「ちょっと…。」

(ひー!こんな時に会うなんて最悪!!)

「家、どこだ?」

「えっ?!」

「女一人で危ないだろう。送ってく。」

「大丈夫です!!さよなら!!」

愛美がお礼を言うのも忘れて、慌ててその場から立ち去ろうとすると、今度は緒川支部長がその腕を掴んだ。

「いいから乗れ。送ってく。」

(ぎゃあぁ、やーめーてー!!)

愛美は大嫌いな緒川支部長の手を思いっきり振り払った。

「一人で帰れます!!」

愛美は逃げるようにして、駅に向かって走り出した。

「あっ…オイ、菅谷!!」

振り返りもせず必死で走って行く愛美の後ろ姿を見つめて、緒川支部長は大きなため息をついた。

「そんなに必死で逃げるほど俺が嫌いか…。」

どこか寂しげな小さな呟きは、愛美の耳に届く事はなかった。