オフィスにラブは落ちてねぇ!!

愛美は思わず、緒川支部長の上着をギュッと握りしめた。

「ん…?」

緒川支部長は、黙り込んだままうつむいてしがみつく愛美を愛しそうに抱きしめて、優しい声で話す。

「引き留めてくれるの、すっごい嬉しいんだけど…明日も出社する職員さんがいるから、俺も行かなきゃいけないんだ。だから今日は帰るよ。ごめんね。」

愛美がうなずいて手を離すと、緒川支部長は愛美の顎に手を添えて上を向かせ、そっと口付けた。

ほんの少し長いキスの後、緒川支部長は優しく愛美の頬を撫でた。

「明日、多分夕方には仕事終わると思うから…会いに来てもいい?」

「……ホントに来る…?」

緒川支部長は、ためらいがちに尋ねる愛美の目をまっすぐに見つめた。

「うん。絶対来るよ。もしどうしても遅くなる時には連絡するから、明日はスマホの電源切らずに待っててくれる?」

「…ハイ。」

「じゃあ…おやすみ。」

「…おやすみなさい。」

緒川支部長はもう一度愛美にキスをして帰って行った。

愛美は緒川支部長を見送り、テーブルの上のコーヒーカップを片付けた。

今さっきまで一緒にいた優しい“政弘さん”の事を考えると、胸がキュッと音を立てた。

(私…どんどん政弘さんの事、好きになってる…。)




緒川支部長は車のエンジンを掛け、帰り際の愛美を思い出して口元をゆるめた。

そして、ゆっくりと車を発進させ、自宅に向かって夜の道を走る。

言葉に出して言ってはくれなかったが、一緒にいたいと思っているのは自分だけじゃないのだと思うと、引き留めてくれた事は本当に嬉しかった。

愛美に引き留められた時、本当はこのまま朝まで一緒にいたいと思った。

だけど、そのまま一緒にいると、衝動が抑えきれず気持ちだけが先走りして、無理やりにでも愛美をどうにかしてしまいそうで怖かった。

愛美の気持ちを何よりも大切にしたい。

衝動だけで突っ走って、愛美を傷付け嫌われるような事だけはしたくない。

愛美が好きだと言ってくれるまでゆっくり待とうと緒川支部長は思った。