オフィスにラブは落ちてねぇ!!

営業所の玄関の前で高瀬FPが立ち止まった。

「やっぱり変ですよねぇ。」

「何がです?」

「支部長ですよ。この間までは、僕と菅谷さんが二人きりになるの、必死で阻止してたじゃないですか。」

「…わかりません。どうでもいいです。」

「そうですか?」

高瀬FPは鞄の中から折り畳み傘を取り出した。

「高瀬FP、傘持ってないんじゃ…。」

「ああ、あれ嘘です。ちょっと支部長の反応が見たかっただけなんで。」

「なんですか、それ…。」

愛美がうつむくと、高瀬FPは楽しそうに笑った。

「あ、そうだ。菅谷さん、お見合いするんですか?」

高瀬FPの唐突な言葉に、愛美は驚いて傘を落とした。

「えっ?!しませんよ!!」

高瀬FPは笑いながら傘を拾って愛美に手渡した。

「そうなんですか?菅谷さんにいい人見つけるんだって、金井さん張り切ってましたけどねぇ。」

(お節介ババァ…!!余計なお世話だっつーの!!)

「支部長みたいな人はダメなんでしょ?いい人なんだけどなぁ…。いい人過ぎるのかな?」

「高瀬FPと支部長はいつもこんなに遅くまで仕事してるんですか?」

「僕は時々ですよ。支部長は結構あるんじゃないですか?夜じゃないと会えないお客さんを訪問する職員さんに付き添ったりとか、夜に契約もらいに行った職員さんの帰りを待ってたりとか。何もない日はそれなりに早く帰ってると思いますけど。」

「人の上に立つ仕事って、やっぱり大変なんですね。」

「だと思いますよ。それに支部長は真面目だから。」

高瀬FPは笑いながら傘を開いた。

「もうすぐ支部長も帰る頃かな?ずっとここにいたら、嘘ついたの支部長にバレて怒られちゃいますね。帰りましょ。」

愛美は高瀬FPと駅まで一緒に歩き、改札を通ったところで別れた。

このまままっすぐ帰ろうと思っていたけれど、なんとなく一人になるのは気が重い。

(マスターの店にでも寄ってこうかな…。)