オフィスにラブは落ちてねぇ!!

勤続年数が長くなるにつれ、支社や他の支部の事まで、聞きたくもない恋愛絡みの噂が多く耳に入ってくるようになった。

愛美はそんな噂を聞くたびに、社内恋愛なんて面倒な事だけは避けようと思っていた。

社内恋愛が禁止されているわけでもないのだが、同じ職場に恋人がいると周りに知られた後がめんどくさい。

根掘り葉掘りいろいろ聞きたがる者や、余計な気を回して気まずい思いをさせる者もいる。

“オフィスラブ”なんて言い方をすれば、なんとなく響きも違って甘美な物に思えるかも知れないが、蓋を開ければこんな物だ。

会社は賃金を得るために労働する場所であって、異性との出会いや恋愛を求めて来る場所ではない。

そこにあるのは仕事としがらみと面倒な人間関係だけだ。


『オフィスにはラブなんて落ちていない』


それが愛美の持論だ。


社内恋愛なんてしない、と思う以前に、そもそも今の職場にはそんな出会いも落ちていない。

若い男性社員が数多くいる支社と違って、今の勤務先は支社ではなく支部だ。

30名ほどの営業職員のほとんどが愛美よりうんと歳上のオバサマで、男性は大嫌いな緒川支部長と、歳下の高瀬FPしかいない。

過去の苦い恋愛経験から、歳上の俺様も、甘え上手なかわいい歳下も、どちらも恋愛対象にはならないし、向こうもきっとそう思っているだろう。

草食系で性格の穏やかな優しい人ならともかく、少なくとも自分の好みのタイプが肉食系の俺様でない事は確かだなと思う。

(誰にでも優しいチャラ男も、甘えるばっかりの歳下も嫌い。でも、自信家で偉そうな男はもっと嫌い。もう2度と過去の過ちは繰り返さないんだから。)



愛美が社会人になってから付き合った男は3人。

自信過剰な俺様男。

女にだらしない調子のいいチャラ男。

部屋に転がり込んだ歳下のヒモ男。

若気の至りと言えばそれまでだが、そんなつまらない男との恋愛を振り返ると、ため息しか出ない。