その夜。

仕事を終えた緒川支部長は、一度家に帰ってシャワーを浴びた後、バーのカウンター席でひとりグラスを傾けていた。

水割りを一口飲んではため息をついている緒川支部長に、マスターがレーズンの入った小皿を差し出した。

「どうした?元気ないんだな。」

「先輩…。」

「愛美ちゃんとはどうだ?」

緒川支部長は小皿からレーズンをつまみ上げて口に運ぶ。

「少しは笑ってくれるようになったのに、また嫌われちゃいました…。」

「なんかあったのか?」

緒川支部長は大きなため息をついて水割りを一口飲み込んだ。

「一昨日、デートに誘ったんです。」

「おお、いいじゃん。」

「でもね…約束の時間の少し前に彼女のマンションの前に着いたら、お客さんから電話が入って…。」

緒川支部長は、やむを得ず愛美との約束をドタキャンして社長宅に向かった経緯を順を追って話した。

「電話にも出てくれないし、メールしても返信もなくて…家に行っても出てきてくれなくて…。」

「機嫌損ねちゃったか。」

「昨日、熱で休むって会社に連絡があったから心配で、夜に彼女の家に行ったんです。」

「ほう。」

「何回もチャイム鳴らしてたら電源を元から切られてしまって…。でもどうしても会いたくて、ドアを叩き続けて…。」

「夜に近所迷惑だな…。」

「彼女に、うるさい、しつこい、帰れ!!って怒られました。」

「だろうな。」

マスターは苦笑いをしながらビールのグラスに口をつけた。

「先輩…彼女と付き合い長いですか?」

「いや…愛美ちゃんがこの店に来るようになって…1年半くらいかな。それがどうかしたのか?」

「彼女に、何が欲しいのって聞かれたんです。…お金か体かって。それに、もう待つのはいや、傷付くのはいやだって言って…。この間も酔っぱらって、最初は優しくてもそのうち殴ったり蹴ったり浮気したりするんだろうって…。」

マスターは緒川支部長の言葉を聞いてため息をついた。