オフィスにラブは落ちてねぇ!!

「菅谷さん。」

エレベーターに向かっていると、後ろから声を掛けられて振り返った。

「あ、高瀬FP…。」

「これ、お客さんからいただいたんでお裾分けです。良かったらどうぞ。」

そう言って高瀬FPは、手のひらいっぱいのお菓子を愛美に差し出した。

「ありがとうございます…。」

愛美が指先でひとつ摘まみ上げると、高瀬FPはニコニコ笑う。

「違いますよ、両手出して下さい。」

「え?」

言われた通りにすると、高瀬FPは愛美の手に、こぼれ落ちそうなほどのお菓子を乗せた。

「これ全部…ですか?」

「あ…でもこれじゃ両手が塞がっちゃいますね。すみません、袋か何かに入れてくれば良かった。」

(かわいい…。意外とオッチョコチョイなんだなー…。)

「大丈夫ですよ。あ、でももう一度持っててもらえますか?バッグから袋出しますので。」

「あ、ハイ。」

バッグの中から紙袋を取り出して開き、高瀬FPの手からお菓子を入れてもらった。

「ありがとうございます。」

「いえ…。すみません、また引き留めちゃって。」

「お菓子、帰ってゆっくりいただきますね。」

(ホントは甘いもの好きじゃないんだけど。)





愛美は更衣室で制服から通勤着に着替え、化粧を直して腕時計を見た。

(あー、いつもより少し遅くなっちゃったな…。)

少し時間がずれた事で、更衣室には誰もいなかった。

とは言え、例え誰かがいたとしても、ほんの少し会話をしてお疲れ様でした、と挨拶を交わす程度で、これと言って特別な付き合いもない。

学生時代は女友達と食事に行ったり、時には合コンなどにも参加したが、最近は一人でいる方が気が楽だと思うようになった。

合コンなんて、ろくな出会いがなかった。

性欲の塊みたいな肉食系の男とか、彼女がいても他の女の子との新たな出会いを求める軽い男とか。

合コンで知り合った男と成り行きで付き合った事もあったが、二人っきりになるとしっくり行かず、たいして好きにもなれなくて、どの相手とも長続きはしなかった。