オフィスにラブは落ちてねぇ!!

ファイナンシャルプランナーの高瀬 諒(タカセ リョウ )、24歳。

性格は真面目で穏やか、見た目はそこそこイケメン。

いかにも肉食系な緒川支部長とは正反対で、高瀬FPは草食系メガネ男子と言ったところだろうか。

愛美はいつも、高瀬FPのメガネの奥の優しい瞳に癒やされている。

付き合いたいとか言うほど好きでもないが、なんとなく好みのタイプに近いので、見ているだけで心が和む。


「ハイ、終わりました。」

「ありがとうございます、助かりました。菅谷さん、ホントに仕事が早いですね。」

「いえいえ。」

(あー、かわいい…。)

高瀬FPの優しい笑顔に、愛美もつられて笑みがこぼれる。

「それでは私はこれで。」

「あ、ハイ、お疲れ様でした。」

今度こそ帰ろうと愛美が席を立った時、緒川支部長が大きな声で愛美を呼び止めた。

「菅谷、ちょっと待って。」

愛美は感情をあからさまに顔に出さないように気を付けながら、大嫌いなその声に振り返る。

「ハイ、なんでしょう?」

(だから帰るっつってんだろうがぁ!!)

自然と声のトーンが低くなる。

「このデータ、明日の朝イチで本社に送って。」

資料を手に、支部長席から動く様子のない緒川支部長にイラつきながら、愛美は仕方なく支部長席に近付いた。

「朝イチでいいんですね?」

「そう。」

「わかりました。明日の朝、早めに出社して入力します。」

「よろしく。」

パソコンの画面から顔を上げる事なく資料を手渡す緒川支部長の頭にコーヒーをぶっかけてやりたい衝動を堪えながら、愛美は資料を受け取った。

「失礼します。」

愛美が無愛想に挨拶をする。

「ハイ、お疲れ。」

緒川支部長も、愛想も顔を上げる事もなく、返事をする。

(ハイ、お疲れってなんだ?!様はどこに行った、様は?!)

受け取った資料を内勤の席の引き出しにしまうと、愛美はイライラしながらやっと支部を出た。