(もしホントにうまくいけば…支部長を叩きのめすだけじゃなくて、今度こそ私も幸せな恋愛ができるかも…なんて、まだ会ってもないのに気が早いか…。あまり期待し過ぎると、また痛い目にあうな…。)

男運の悪い自分は、どんなに頑張っても幸せにはなれないのかも知れないと思ったりもする。

幸せな未来を期待すればするほど、また傷付いた時の痛手は大きくて、もう何も望むべきではないのかもとも思う。

でもやっぱり、できれば誰かの優しさや温もりを感じながら穏やかに暮らしたい。

いつか心から笑って、幸せだと言える日がくればいいと思う。


そんなささやかな幸せを夢見る事くらいは許されるだろうか?





愛美は腕時計を見て、小さくため息をついた。

(もうずいぶん遅くなったんだけど…やっぱり、来ないのかな?仕事が大変だってマスターも言ってたし…。)

どんな人なのかと期待した分だけ、来ないかも知れないと思うと残念さが増すような気がした。

(やっぱ男運がないんだなぁ…。そんないい男が私のところに来るわけないかぁ…。)

愛美は水割りを飲み干して席を立った。

「マスター、私もう帰る。」

「あれ?待たないの?」

「仕事大変な人なんでしょ?私なんかのために無理して来てもらっても、がっかりさせたら申し訳ないし…やっぱり、いいや。」

「もうすぐ来ると思うんだけどなぁ…。奢るからさ、もう一杯だけ、飲んで行きなよ。」

「んー…やっぱり、いい。でもお手洗いだけ借りて帰る。」

愛美は笑って化粧室に向かった。

鏡の前で大きくため息をついて、ほんのりと赤くなった頬に触れる。

(結構飲んだな…。顔赤いや…。帰ろう…。)