オフィスにラブは落ちてねぇ!!

緒川支部長は支部長席に鞄を置くと、支部のオフィスの隅にある自販機で缶コーヒーを2本買って、1本を愛美のデスクに置いた。

「俺のおごり。早くから出社して頑張ってるから、ご褒美。」

「どうも…ありがとうございます…。」

(ご褒美ってなんだ?)

「割とあからさまだよな。」

「え?何がです?」

「高瀬と俺に対する態度が全然違う。俺の事、嫌いだろ?」

「…そんな事ないですよ。」

(なんだ、バレてたのか。ええ、大嫌いですよー。)

愛美は缶コーヒーのタブを開けようと、パソコンの画面から視線を外した。

(ん…?)

視線を感じてそちらを見ると、緒川支部長がじっと見つめていた。

「あの…何か?」

(じっと見んな!)

「いや…。やっぱり俺には笑ったりしないんだな。」

「…仰る意味がよくわかりません。」

「そのまんまだけど?」

「なんですかそれ…。」

(ああもう、早くあっち行け!!)

「高瀬だけじゃなくて、俺にも笑って欲しいと思っただけ。」

緒川支部長はそう言って愛美のそばを離れた。

(なんだそれ…。なんで私がオマエのために笑わないといけないんだよ。)


二人っきりのオフィスに、愛美がキーボードを叩く音だけが響く。

支部の入り口近くにある内勤席と支部の奥にある支部長席は離れている事もあり、お互いに目も合わせず、会話もしない。

ただ、大嫌いな緒川支部長と二人っきりでいるのは居心地が悪く、愛美は早く誰かが出社してくればいいのにと思いながら入力作業を続けた。


しばらくすると、高瀬FPが出社した。

「おはようございます。あ、菅谷さん、今朝は早いんですね。」

「おはようございます。昨日はお菓子、ありがとうございました。」

「いえ…。」

高瀬FPの柔らかい笑みに、愛美もつられて微笑んだ。

(存在自体が癒しなんだよねぇ…。なんて言うか…小動物系?アレとはエライ違いだわ。いくらでも眺めてられる。)