「なんで……?」
私になんて、もう会いたくなかったんじゃ、ないんですか?
「ごめんね。スマホ、壊れちゃって。雛子ちゃんの番号も分からなくなっちゃって」
すまなそうにそう言った七倉さんは、ゆっくりと私に近づく。
「雛子ちゃんに会いたかったけど、仕事が忙しくて。ツアーもあって。東京にもいられなくて」
近づく七倉さんが、私の前でぴたりと止まった。
「やっと会えた」
吐息みたいに囁いた、七倉さんの声は、どこまでも優しくて。
私を見る目は、どこまでも温かくて。
嬉しくて、胸が熱くなる。
七倉さんの指が、私の頬に触れる。
「ごめんね。泣かせちゃって」
細くて長い指先が、頬を濡らす、雫を拭う。
「あんな別れ方をして、不安だったよね。俺のこと、言わなくてごめん。俺が芸能人だって知ったら、雛子ちゃんは、もう俺にありのままの自分を見せてくれなくなるんじゃないかって、恐かったんだ」
涙をすくった手が、私の頬を優しく包む。


