「小さなボールを必死に追いかけていると、嫌なこととか、どうしようもないもどかしさとか。とにかく胸の中のもやもやが全部吹き飛ぶんです」
そう答えた後、しまったと後悔した。
なんだ?この恥ずかしいせりふは。
これじゃあ、まるで私が、思いっきり悩んでる子で。テニスだけがお友達。みたいな寂しい子じゃないか。
恥ずかしさに、真っ赤になった頬を両手で押さえたとき、
「見てみたいな」
ぽつりと七倉さんが言った。
「え?」
「今度、雛子ちゃんがテニスしてるとこ、見せてよ」
ふわりと目を細めて笑う七倉さんの向こう側に、家の近くの電信柱の上で光る、見慣れたオレンジ色の外灯の明かりが見えた。
もう、お別れか……。
寂しい気持ちを振り払うように、明るい声で七倉さんに言った。
「ここで大丈夫です。もう、すぐそこですから」


