「家に、上がっていきませんか?」
振り返った七倉さんは、困惑した顔をした。
「父も母もいません。兄もコーギーに行っていて、朝まで戻りません。だから…」
「雛子ちゃん」
私の言葉を遮った七倉さんが、感情を抑えた声で聞く。
「俺を家に誘う意味、分かってる?」
「意味。ですか?」
そんなの。せっかく会えたのに、もうサヨナラなんて寂しすぎるから。
もっと七倉さんとお話がしたいから。
だから誘ったけど、七倉さんは迷惑だった?
不安な気持ちで七倉さんを見ると、
「ふーっ」と長い息を吐いた後、
「やっぱり帰るね。おやすみ」
そう言った。
なにか七倉さんにいけないことを言っただろうか?
ライブの後、大阪から横浜まで戻ってくるのだって大変だっただろうし、疲れてるよね。
心配になって、
「ごめんなさい。七倉さん、怒ってますか?」
気が利かない女だって、呆れたんじゃないかって、不安になった。


