母がキョトンとした顔で時音の顔を伺う。

「……時音、知ってる子?」

だれ、だっけ。

思い出せない。

知らない。

どこで?いつ?

でも確かに、デジャヴはあった。

「……分かん、ない」



『3番線、ドアが閉まります。ご注意ください』



ピーポーン、ピーポーン、ピーポーン……



「おい、とっきーってば!」

少年の事を思い出せないまま、電車のドアは閉まった。

少年は閉まったドアをタンタンと叩き、時音を見つめてる。

どうしても思い出せないまま、無情にも電車は走り出した。

「……ぜっっってえええ会いに行くからなーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

少年の涙混じりの大声は、夜に溶けて、誰に届くでもなく消えた。