【七年前:八月二十三日:K県床鴒島】
三日程続いた夏祭りも終わりに近付く。
もう滞在期間が終わり、夏が終わり、九月が始まり、学校が始まる。
周囲の人々のざわつきもトーンが下がり、心なしかガッカリしたように聞こえてくる。
「なぁ、『とっきー』、次はどこ行く?早く行かないと出店片付けられちまうぞ」
それをものともせずに終始変わらず太陽のような笑顔を絶やさないこの少年は、時音を連れ回していた。
『可愛いカップルねぇ。サービスしてあげる!』、『今日の分余ったから持ってけ~』、『おっ、恭葉(やすは)ちゃんとこの弟か!これやるよ!』とたくさんの人にいろんなものを貰って、両手もお腹もいっぱいになってきた。
少年はここら辺じゃ顔が広いらしい。
けど、時音の顔は少年がなにかくれる度に表情が曇っていく。
「とっきー?どーしたんだよ、腹でも痛いのか?温かいもん食う?」
いつの間にか足が止まった時音を振り返り、少年はフランクフルトを差し出す。
ふるふると首を振って『いらない』と表すと、時音は口を開いた。
「あのね、私ね……夏休みが終わったらまたT県に帰らなきゃいけないの」
時音は夏休みの間だけ、K県にある祖母の家に来ていた。