時音の病室には誰もいなかった。
入口の前で病院関係者や響香さんがバタバタオロオロしてるだけで、開いた窓から冷めた夜風がカーテンを揺らしてるだけ。
もぬけの殻、という言葉が当てはまる。
連絡を聞いてまた病院に駆けつけたあたし達相談部は、空っぽの病室を前に唖然とした。
「あ、国吉さん、涼村くん、姫宮さん、玉木くん……お待ちしてました」
わ、和田先生すごい!一回会っただけなのにすごい記憶力……いや、問題はそこじゃない。
「どういう事ですか!?何時間か前にはいたのに急にいなくなるなんて、そんな……」
先生は外国人みたいに肩をすくめると、息を吐くように話した。
「この通り、私が来た時にはこんな状態だったんです。来栖さんのお母さんと一緒に、ベッドの下やクローゼットの中を確認しても、どこにもいなくて……」
「記憶が戻って美色ちゃん達のところへ行ったんじゃないかと思って連絡したんだけど……違ったみたいね」
仮にそうだったとしても、時音はそんな事しないと思う。
和田先生と響香さんを見てると、本気で探してもこの病院のどこにもいない事が分かった。
「もしかして、窓から突き落とされたとか?!」
あたしはすぐさま窓枠に体重をかけて下をのぞき込む。
この病室は三階。
落ちたら結構危ないだろう。
「無理だと思います。そこの下の茂みの植物は鋭利な棘と枝があり、飛び降りたらかなり痛いですよ」