必死で自分を指差して主張するけど、時音の反応は無い。

「……分かん、ない…………」

「ほ、ほんならうちは?!キナリんや、姫宮 綺鳴!」

「涼村 珀成だ。来栖、俺は覚えてるだろ?」

すかさず綺鳴と珀成が自分を主張するけど、時音の反応は変わらない。

「……知らない……」

力無くストレートヘアが揺れた。

「と、時音、お母さんは覚えてるわよね?!」

「………………わかんない…………」

「「「「……」」」」

思わず四人は顔を見合せた。

傷心のあたし達を馬鹿にするみたいに、窓の外で冷たい風が吹く。

「と、とりあえず、響香はん!もっかいお医者さんに診てもらった方がええんとちゃう?」

「え、ええ。そうね。えーと、先生を呼ばなきゃ……」

響香さんがハッとして車椅子を方向転換させようとした時、

「あれ、来栖さん、どうしました?」

と声が聞こえてきた。

「あ、和田(わだ)先生!あの、うちの娘、様子がおかしくて……お友達の事、覚えてないみたいなんです」

ふむ、と考える仕草がかっこいいこの人が、時音の担当のお医者さんらしい。

マスクと白衣をした背の高い男の人。

あたしが見上げないと顔が見えないくらいスラリと背の高い和田先生は、少し中腰になってあたし達と視線を合わせてくれた。

「君達が、来栖さんのお友達かい?」