「うぉいっ!しーほっ!なぁにいつまでも見とれてんだよぉっ♡」




突然後頭部を分厚い教科書で叩かれる。


後ろを振り向くと、黒い笑顔の親友がいた。


「いったぁ……。ちょ、南緒!ひどいよ、恨みこもってるでしょ!非リアだからって……」


「うるさーい!あんたもでしょ!ついでにもう1発くらってみる?」



にたぁっとしながらまたもや教科書をちらつかせるので、今はとりあえず黙っとこう。

……ま、私だって非リアだけどさ。


一応、人のことは言えない。


「ほれ、さっさと移動教室に行った行った!」


……あぅ、次は理科だっけ。


めんどくさいなぁ……教室でいいじゃん。


ブツブツ言っていると、永澤くんがいつの間にか教室から消えていることに気づいた。


……もう行っちゃったのかなぁ。はや。


そう思うとなんか寂しい。


早く行こっと。










「……あのね、さっきの一時間目の数学。もうずっと見てたの!」


理科室は最上階の4階にある。


その階段の途中で永澤くんのことを熱弁していた。


「風がさぁって吹いてきて、永澤くんの髪の毛をふわぁって。もう幸せだった……♡」


「ふはっ、詩星、あんたやばいね。そんなことで幸せとか」


「やばくない!永澤くんと話すことの出来ない私にとっては、これ以上ない幸せだもん」


きっと、全国の隅っ子系女子&あがり症の子はわかるはず。


そんな私を見て、南緒がふぅっとため息をつく。



「あのねぇ……もっと近づいてみれば?そんな遠くからコソコソさぁ……ストーカーかっての!」


違うもん!ショートヘアの美人代表キラキラ女子南緒には分かんないだけだもん!




……とは言わず。


「モテモテだけど非リアな南緒には分かんないよっ」


ちょっとだけキッと睨んでみた。