「糸くずがついてました」
「…ぁ、すみません、ありがとうございます」

そう言って笑ってみせ、また頭を下げると、オフィスに戻る。

…どうしてなのか。黒川部長は素敵な人だ。

それなのに、ちょっと髪に触れただけなのに、凄くイヤだった。

毎日、手入れをしてる自慢の髪。

…司に触れられるのは、全然嫌じゃなかったのに、なんで?

「・・・ぁ」

そんな事を思っていると、・・・またしても、司とバッタリ会う。

「お疲れ様です」

私は司に事務的な挨拶をすると、中に入ろうとした。

「何でそんなに避けてんの?」
「・・・別に、司の気のせい」

「あからさま過ぎんだろ」
「・・・」

明らかに避けていた。…司が不機嫌なのも分かる。

確かにあからさま過ぎた。

「…俺がキスしたから?」
「こ!声が大きい」

…たまたま誰もいなかったからいい物を。

「怒ってんの、こっちなんだけど」

そう言うなり、司は私の手を引いて、使われていない会議室に連れ込んだ。