・・・その日一日は、徹底的の司を避けた。

余分な仕事をして、他部署への仕事を全部引き受けて、オフィスにいないようにした。

司は営業で外に行く事も多い。

それなのに、オフィスに帰ってくるたびに、鉢合わせして。

「…ぁ、朱莉」
「・・・」

司の声も、聞こえないふりをして…私、何やってんだろ?

思わずため息とついた。

「…ため息ついてると、幸せが逃げますよ」
「…黒川部長」

人事部に書類を届け、帰ろうとしていると、黒川部長に声をかけられた。

「いつもみたいな元気がないですね、どうかしたんですか?」

…黒川部長は、物腰が柔らかで、部下からも信頼が厚い。容姿も申し分なく、素敵な人だ。

こんな、他部署の私の事も気にかけてくれる。

「…ちょっと夜更かししてたせいですかね」

そう言って笑ってみせる。

今かかえている悩みなんて言えるはずがない。

「…そうですか?・・・何か困ったことがあったら、何でも相談してくださいね」
「ありがとうございます」

そう言って頭を下げた。

「あ、ちょっと動かないで」
「・・・え?」

言われた通り、動かないでいると、黒川部長が、私の髪に触れた。