「…おまっ⁈」
「…既成事実を作ればこっちのものよね、ね〜、斎藤さん」

…⁈

無理やり俺の唇を奪った希はニヤリと笑って、あり得ない事を言い放つ。

希の視線を辿れば…そこにはいるはずのない朱莉の姿。

驚きとショックで、俺を見つめている。

…朱莉の横には、黒川がいて。

「…斎藤さん」

心配そうな面持ちで黒川はそう言って朱莉に触れようとした。

「触らないで!…帰ります」

語尾は、声にならないような沈んだ声。…明らかに勘違いしているのは一目瞭然。

「朱莉」
「…」

俺の声にも返事はなく、踵を返して廊下を突き進む。

朱莉を捕まえようと足を進めようとしたが、希に止められた。

「…いかせない!」

その腕を払いのけた。

「…俺を本気で怒らせたな」
「…‼︎」

俺の顔を見た希は、顔が一気に青ざめた。

そんな希に目もくれず、俺は朱莉を追いかけた。

…しかし。

もう、どこにも朱莉の姿はなかった。