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(…2人の夢、か。笑)
 リンと別れてから時間が経ち、もう夜の10時を回っている。病院の消灯時間が夜9時(21時)のため、とても静かな時間帯だ。
(てか、今日話した会話を思い出して笑うとか…、俺、キモッ。(¯―¯٥) )

 ガラッ

 集中治療室のドアが開く。入ってきたのは、もちろん俺の父親だ。
「……何?また髪切るの?」
「いや、今日は違う。お前、2年前に仲が良かった女の子と再開したらしいな。」
「!!?」
(リンとのことは言ってないはずなのに!しかも、2年前に話したことがあるのも知られてる。何で!?)
「集中治療室から窓を通して声が聞こえるという噂が耳に入った。2年前も同じ噂が流れたが、その女の子の手術が入ったから見逃したけど、二度目は見過ごせないよ。」
 リンと話していることが知られている。2年前のことも父親の耳に入っている。最悪の状況だ。下手をすれば、リンにまで危害を加えてしまう。
「リンに、手を出さないで…。」
「さぁ、どうかな。それよりも、まずお前からだ。お前には実験に協力してもらうんだ。」
 父親の手がちらっと見えた。スタンガンがあるのに俺は気がついた。
「!?何するの?」
「気を失ってもらう。そして、お前の頭の中にマイクロチップを……。」
「何言ってんだよ!嫌だ!!そんなの協力しない!!」
「父親の言う事が聞けないと?そんなこと許されない。大丈夫、死ぬわけじゃない。ちょっとしたゲームに参加してもらうだけだ。一応息子だからな、記憶をいじることはしないが、人間の記憶をかきかえる事が出来たらどうなると思う?この実験は、人間の記憶をかきかえる実験でね、俺の信用できる科学者たちはみんな、この実験に興味をもって、高値で買い取ってくれるらしい。なぁ、協力してくれよ。手伝ってくれるんだろう?さぁ、ちょっと寝てくれたらサッと手術してあげるから。」
「……ぃ、嫌だ!!」
 父親が俺を捕まえようとするが、なんとか逃げて、運の良いことにドアの鍵をかけ忘れている。俺は全力で逃げた。
「……何としてでも探し出すんだ。」





 ………ハァ、ハァ、ハァァ。

 俺は階段の影に隠れた。無我夢中に走ったため、どの階にいるのかわからない。
「……どうしよう。…ここに、いても、すぐに見つかる。」
 手が震えている。俺は手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
(…怖い。…リン、どうしよう。……あっ!)
 俺は手術をしてからリンと初めて会ったときのことを思い出した。
『私、手術する前の記憶が曖昧なの。』
(リンに知らせないと!俺の問題なのに、巻き込みたくない!!)
 人間の記憶をかきかえる実験がもう行われている可能性が高い。もしかしたら、リン以外の人にも危害が加わっているかもしれないと思うと、ぐずぐずしてはいられなかった。
(早くリンにだけでも知らせなきゃ!でも、どこに……?)

 ドンッ

「……いたっ。」
「ごっごめんなさい。大丈夫?」
「…えっ。」
 ぶつかったのはリンだった。どうして夜遅くに病院内を歩いているのか知らないが、今はそれどころではない。俺はリンの肩を掴んて、こう言った。
「よく聞いて。君はいつか、とっても苦しいことに巻き込まれるだろう。それは俺の責任だ。でも、絶対に君を助けるから。それまでは自分らしく、俺なんかよりも強く生きて。約束。」
 俺は走り出した。長い琥珀色の髪をなびかせながら。
「えっ。……待って。ユーシャくん?」

「手、冷たかったなぁ。」


 走り続けると、どこかの階段で人とすれ違った。
「見つけた。」
「!!誰?」
「ドクター、見つけました。」
 無線で誰かと連絡をとっていた。たぶん、父親だろう。この人以外にも何人か病院を見まわっている人がいる可能性が高い。
(父親(アイツ)の知り合いか!逃げなきゃっ。)
「待て!」
 強い力で腕を掴まれた。
「離して!嫌だ!絶対あんな実験には協力しない!!だから、離せ!!」
 俺は腕を振りはらった。しかし、その勢いでバランスを崩してしまった。ここは階段だ。もう足の踏み場がない。
(……落ちる!)

 ドタタタタッ

 階段から勢いよく転げ落ちる。意識はうっすらとあるが、頭を強く打ったらしくまわりがほとんど見えない。
(……ヤバイ。立てないし、前がよく見えない。…リン。ごめん、ごめんね。)
 聴力だけが少し残っていた。最後に聞こえた会話が、
「見つかったか。」
「ドクター、実は…。」
「!頭から血が出てる。…まぁ、いいさ。手術のついでにマイクロチップを埋め込む。これで、コイツは毎日大人しくしてくれるし、この髪だってもう私のものだ。…おやすみ。良い夢を。」
(…リン、助けて。)
「手術の準備をしろ。」
 思考が完全に停止する直前、ひと粒の涙を流した。



 しかし、それを知っている者は誰もいない。涙を流した本人でさえ、もう知ることはない。

 ー 記憶が途切れた…。ー




















































『Welcome.』
「……んっ。」
 目の前に広がるのは青い空、キラキラ光る太陽、そして辺り一面真っ白な世界。真っ黒なフード付きの服に、ちらっと見えた琥珀色の髪。現実の自分が(服以外)ほぼ完璧に再現されている。


 この日から、ゲームがスタートした。
「何で、こんなことになるんだ。…俺、やっぱりダメだ。全然強くないや。……ボクは君の勇者には、なれない。でも……。」


 ここは、ゲームの中。すべてのものがデジタルによって作られた世界。そこで流す涙も偽物なのだろうか……。
「……絶対に、帰る。本当の涙を流せる世界に。」




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