その場でドリブル練習をしていた手が、止まる。規則的にボールが床にぶつかる音が、途絶えた。
コロコロ転がっていくボールに、1ミリだって意識は向かない。
俺の代わりに、碧がボールを取りに行ってくれたことすら、わからなかった。
「あ、ねぇ、りんご」
「なあに?」
「あそこ!更科先輩と芹沢先輩いるよ」
「ほんとだ!」
ギャラリーの端にいたのは、小佐田と土浦。
話してる内容まではさすがに聞こえなかったが、おそらくそんな感じな気がする。妄想ではない、想像だ。
2人も俺と碧に気づいて、会釈してくれた。
好きな子(とその友達)が、バスケ部の見学に来ている!
モチベーションが上がる上がる。今日ほどやる気に満ち溢れる日はないくらいに。
恋のパワー、恐るべし。
どうして見学に来たんだろう。
マネージャー志望だろうか。それとも、兄がいるから?
ただひとつ言えるのは……俺、バスケ部員でよかった。