「焼きそばなら、2階で売ってたぜ?」



現在地である1階の廊下を歩いていた足を止め、上を示したのは、矢崎 要【ヤザキ カナメ】。



いつも元気で明るい、いわゆるクラスのムードメーカー。

4人の中で一番笑顔が最高にかっこよくて、エネルギーがある。まるで太陽みたいな存在だ。


こげ茶色の艶のある髪と大きな目が特徴の見た目は、あどけない少年らしさをわずかに残している。




碧、遥陽、要、そして自他共に認める不器用代表の俺・更科 幸【サラシナ コウ】の4人は、皆同じクラス。よく一緒につるんでる仲だ。





「じゃあ2階行くか」


「焼きそば食った後さー、劇観ようぜ、劇っ!」




出店したり、遊んだり。賑やかな声が、あちらこちらから聞こえてくる。


生徒たちは、心なしかいつもより生き生きしている気がする。もちろん俺たちも。



現に、たった今、隣から碧のはしゃぎっぷりが直で伝わってきた。

はいはい。わかった、わかったから、そんな劇を連呼するな。劇な、劇。俺も観たい。





俺たちは焼きそばを食べるという目的のため、2階へと続く階段を上った。




「うわ、満席……」



残念ながら、焼きそばを売っている教室の中は、人だらけ。空いている席はどこにもない。


焼きそばは人気があるらしい。



もし碧の頭に本当に犬の耳が生えていたら、しょぼん……と垂れていただろうな。




「どうする?」


首を傾げる要に、他3人は顔を見合わせる。




「満席じゃ、しゃーねぇよなぁ」


「俺は別に違うところでもいいけど」



碧のため息にかぶせて、遥陽が妥協意見を呟いた。