「お、俺は、2年3組の更科幸。よろしくな」
「はい!よろしくお願いしますっ」
照れながらも力なく口元を緩めると、小佐田は穏やかに微笑んだ。
名前と同じ、林檎を彷彿【ホウフツ】させる、真っ赤な頬のまま。
甘ったるい動機が、俺の呼吸を苦しくしていく。
あのつぶらな瞳に俺が映っていることが信じられなくて、軽く舌を噛んでみた。
あ、痛ぇ。
ってことは、夢じゃない。
やべぇ。ニヤけが止まらねぇ。
「私も掃除始めますね」
小佐田も慌ててマスクを付け、ホウキを手に取った。
小佐田りんご……小佐田りんご……。
刻み付けるように、心の中で繰り返し唱える。
きみの名前を、何度も何度も。
横目でチラッと見てみると、小佐田は真剣な顔つきで床を掃いていた。
先程までの柔らかな雰囲気は、もうどこにもない。俺の視線にだって気づかない。
澄んだ瞳は、揺らぐことなく真っ直ぐで。
熱の引いた頬は、透明感に溢れ、あどけない。
小柄な背丈だからか、制服はダボダボ。手のひらまで、カーディガンで隠れている。
ふんわりとしたパーマの髪は、用具室に入ってくるすきま風によって、優しくなびいている。
一瞬きみを見ただけで、視線を逸らすことなんてできなくなっていた。



