高校1年、秋。
やや肌寒い外とは打って変わって、校内は浮かれた熱気に包まれている。
窓の隙間から入り込む冷風など、いとも容易に蹴散らしているくらいだ。
そんな強力な熱に当てられて、気分はいつもより高い……かもしれない。少なくとも、周りはそうだ。
紅葉が綺麗だなあ、なんて風情を楽しむ奴なんか、現在この学校内にはいないだろう。むしろ、パリピだうぇーい的なテンションに近い。いや、パリピではないんだけど。
それもそのはず。
なぜなら……
「なあ、次どこ行く!?」
「さっきお化け屋敷行ったから、次は……何か食べるか?」
今日は、文化祭なのだから。
しかも、高1の俺にとっては、高校生になって初めての文化祭。テンションが上がらないわけがない。
学校の一大イベントに心を躍らせながら、食事の提案をしたのは、何を隠そうこの俺だ。
ちなみに、今、同じクラスの友達3人と一緒に回っている。
「てか今何時?」
「んーと、12時ジャスト!」
俺の問いに、腕時計をズイッと見せてきたのは、俺よりはるかにテンションが高い芹沢 碧【セリザワ ミドリ】。
ちょっと可愛い中性的な容姿をした、人懐っこいタイプ。
どことなく犬っぽくて、コミュ力が高い。あー、あれだ、俗にいう「犬系男子」。
栗色の柔らかな髪の左サイドを、名前と同じ碧色のヘアピンで留めている。
そこも可愛いポイントだと、この前女子が話していた。
「あ、俺、焼きそば食いたい気分ー!」
「いいな、それ。俺も焼きそば食いたくなってきた」
碧の意見に賛成し、早速パンフレットを見ているのは眞田 遥陽【サナダ ハルヒ】。
清涼飲料水のCMでもやってそうなくらい爽やかな外見を裏切らない、優しい好青年。
品行方正で、友達の俺から見ても「イケメン」という言葉が一番似合う奴だ。
サラサラした傷みのない黒髪が、より爽やかさを際立たせている。
俺も黒髪なのに、何が違うんだろう。今度、どんなシャンプーを使ってるのか聞いてみようか。