ねぇ、こっち、向いて。
柔らかな髪に、そっと触れてみる。
どうしようもなく指が震えて、格好つかない。
「りんごちゃん」
頼りなげに呼びかけると、りんごちゃんは少しずつ顔を上げて……
――キキィッ!!
突然、片耳をつんざいた、甲高い音。
条件反射で顔を振り返らせる。
背後から、アスファルトにタイヤを擦らせながら、1台の車が細い道路を猛スピードで迫ってきていた。
「っ、」
咄嗟にりんごちゃんを庇うように抱きしめた。
車に背を向けて、塀のほうに寄る。
ガードレールがないため、ぶつかるすれすれの距離だった。
変わらぬスピードのまま走り去っていく車に、安堵の息をつく。
「りんごちゃん、だいじょ……」
うぶ?、と。
最後まで言えなかったのは、りんごちゃんが俺の腕の中にいるからで。
まさかこんなに近いと思っていなかったからで。
ハッとして両手を上げ、一歩下がった。
「だ、だ、大丈夫?」
「は、はい、大丈夫、です!ありがとう、ござい……ます」
もしかしたら、俺の心音が聞こえていたかもしれない。
さっきまでのこそばゆい空気は、既に吹き飛んでいた。



