村瀬君が異動する事に気をとられ、うちの営業アシスタントに、誰かが異動してくる事なんて、全く頭になかった。

その事実は、またもや高野主任から告げられる。

「えっ!?」

口を開けたまま、もう一度高野主任に訊いてしまう。

「なんだ、聞こえなかったか?沙映ちゃんだ。み・ず・の・さ・え!」

クククッと笑いながら、高野主任は繰り返した。

「でも、水野君は臨時採用だったはずじゃ・・・」

「3ヶ月たったから、本採用になったそうだ。川下部長が動くんだから、どうにでもするさ」

肩を竦めて、高野主任が言った。

「水野君は、承諾したんですよね?」

「彼女の立場で、断る事はないさ」

「・・・」

水野君と初めて会った時に、彼女が一瞬見せた不安そうな顔が浮かんだ。

「ただ・・・いろいろ不安はあるだろうな。経理の時は、簿記の資格がいかせると思えたようだが、うちは、彼女にとって未知の世界だろう」

そう言った後、高野主任は、主任らしい人懐っこい笑みを浮かべた。