「雫ちゃん? 帰ってるなら早く入りなさいよー、……あら、その人は?」
「お、お母さん……!! あっ、あのね、雨で帰れないらしいんだけどどうすれば――」
「そうなの? じゃあ……明日休みだし一晩泊まってく?」
「えっ!? お母さん、なんで……」
「まあいいじゃない、ほら入って入って♪」
そう言ってお母さんは霰の背中を押して家に入れて、霰にタオルを渡した。
「はいっ、タオルどうぞ♪ ……そういえばあなた、名前は何て言うの?」
「あ、ありがとうございます。俺は雫と同じ高校の3年1組、結城霰です」
「霰くんかぁ〜……、で!? 雫と付き合ってるの?!」
お母さんは瞳をキラキラ輝かせながら霰にずいっ、と近づいた。
「……はい。付き合ってます」
霰は若干身を引きつつ、そう答えた。
「そうなの〜♪ ……あっ、雫の部屋はこっちよ♪」
そう言ってお母さんは私達を私の部屋へ誘導した。……片付けておいてよかった……。
「じゃ、夕食作ってくるから仲良くしててね☆」
お母さんはそう言ってドアを閉めて台所へと向かっていった。お母さん、テンション高いなー……。
「……雫、よかったな。彼氏として承認されたらしいし」
「うん。まぁ、お母さん達が認めてくれなくても私達は付き合ってるけどね」
「そうだな。……なぁ雫、寝る時って……一緒なのか?」
「うん、そうなるかもね……空いてる部屋ないし、ベッドは1つしかないし」
「そっか。じゃあ……、――何かありそうだな」
そう言って霰はソファーに押し倒してきた。な、何かって……?
「……変態」
「え、内容とか何も言ってねぇのに!? ……あ、もしかして期待してた?」
「やっ……、霰くすぐったい……!」
霰はそう言って私の耳に息を吹きかけてきた。
「お前、可愛すぎ。他の男にはその顔見せんなよ」
「わ、分かってる。……てか、こんなところ誰かに見られたら……」
その時、ガチャッと私の部屋のドアが開く音がした。
「……お姉ちゃん? 何してるの……?」
「え、愛!?」
ドアの横で顔を覗かせているこの子は、私の妹の愛(めぐみ)。来年の春には小学生になる。
「こんにちは、愛ちゃん」
「……イケメン……王子……好き」
「なっ……め、愛!?」
愛はそう言って霰に抱きついた。あの人見知りの愛が!?
「ありがとう、愛ちゃん。俺も好きだよ。さて、ちょっと俺お母さんの料理手伝ってくるよ」
そう言って霰は愛を抱っこして部屋を出ていった。