目が覚めれば、周りには知らない人が溢れていた。


 やっと会えたと思った大切な人は、戸惑ったように俺の名前を呼んだ。


 作ってくれたクッキーも、俺の名前を呼ぶ声も、美月のはずなのに美月じゃないような気がしてた。


 それでも俺には美月しかいなくて、目の前の彼女に少し不自然さを感じても、それが本物の美月なんだって疑わなかった。


 1年以上眠ったままだと聞かされて、その長い時間の中できっと美月も変わったんだろうって、そう信じてた。


 なんで俺の中には美月のことしか残っていないんだろうとか、なんで俺は眠ったままだったんだっけ、とか。


 ほかにもたくさん思うことはあった。


 ぽっかりと穴が空いたようにスース―する胸に、疑問を抱いたりもした。


 だけど、友達だって言うイチや、俺の母親だって泣きながら言った母さん。


 ……悲しげに、優しく微笑んだ彼女。


 それが俺にとっての“本物”なんだって、信じてた。