全然意味がわからなくて、拳を膝の上できつく握る。
小さく息を吐いたイチの顔も、見られないままだった。
「お前はいろんなことを知らないまま、ここまで来てる」
「……どういうことだよ」
揺れた声の俺とは対照的なイチの声。
なにもかもわかってる、そんな口振りに腹が立った。
悲しかった。
「お前、事故に遭った日のことを覚えてるか」
……覚えてるに決まってるだろ。
「あの丘で誰と過ごしてなにをしたか、ちゃんと覚えてるか」
……当たり前だろ。
「お前、自分に記憶がないこと、本当にちゃんとわかってんのか」
“記憶がない”
改めてそれを言われて、身体がびくりと震えた。
顔を上げると、鋭いイチの目が視界を占めた。
泣き出す直前、涙を堪えるみたいに目を真っ赤に充血させて、それでも声は真っ直ぐ響く。
「お前が知らないお前自身のこと、たくさんあるんだよ」
あまり感情が顔に出ないはずのイチなのに、表情は曇って切なげだった。



