空を見上げて、月を描いて


 全然意味がわからなくて、拳を膝の上できつく握る。


 小さく息を吐いたイチの顔も、見られないままだった。


「お前はいろんなことを知らないまま、ここまで来てる」


「……どういうことだよ」


 揺れた声の俺とは対照的なイチの声。


 なにもかもわかってる、そんな口振りに腹が立った。


 悲しかった。


「お前、事故に遭った日のことを覚えてるか」


 ……覚えてるに決まってるだろ。


「あの丘で誰と過ごしてなにをしたか、ちゃんと覚えてるか」


 ……当たり前だろ。


「お前、自分に記憶がないこと、本当にちゃんとわかってんのか」


 “記憶がない”


 改めてそれを言われて、身体がびくりと震えた。


 顔を上げると、鋭いイチの目が視界を占めた。


 泣き出す直前、涙を堪えるみたいに目を真っ赤に充血させて、それでも声は真っ直ぐ響く。


「お前が知らないお前自身のこと、たくさんあるんだよ」


 あまり感情が顔に出ないはずのイチなのに、表情は曇って切なげだった。