アウェイ感が突き刺さるだろうから綾を誘ったというのに、あっという間に綾はこの独特な雰囲気に馴染んでしまった。


周りを見渡してみると、アニメのTシャツを着た人や名前の入ったうちわを持った人など、それはまるでテレビで見るアイドルのコンサートのよう。
今の時代、声優がアイドル的人気を博しているということは、知っているし理解しているつもりだった。
しかし、この広いイベントホールが人で埋め尽くされた光景を目の当たりにした今、未知の世界を覗き込んでいるみたいだった。



そして時間になると、照明がじんわりと落とされていき、ざわついていたホールは途端に静まり返る。隣にいる綾もステージ上を見つめてその時を待ち構えている。


愁くんと付き合いだしてからこういうイベントに来るのは初めてのこと。今まで私から行きたいということも、愁くんから誘うこともなかったのだけど、今回は特別だった。
見たことのない愁くんを見られるというのは楽しみであり、昨日の夜、まともに眠れなかった私もこの会場で例外なく浮わついた1人なのだろう。