「ママ、ノック」


「あ。ごめんね。何してたの?お裁縫なんか珍しいわね」


「うん。ボタンとれて」と適当な嘘を吐いた。ママに見られたら、誰にあげるの?とか色々聞いてくるに違いないから。


「何?」


「ああそうそう。今度の土曜日の温泉のことなんだけど」


「……温泉?」


今度の土曜日は、バスケの県予選がある日だ。


「なに驚いてるの?前から言ってたじゃない?秋田のおばあちゃんが来るから、温泉行くって」


「聞いてないよ。おばあちゃん達が遊びに来るかもっていうのは知ってたけど」


確か従姉妹に赤ちゃんが生まれたから、来月、こっちに遊びにくるかもとは聞いていた。


だけど、それが今度の土曜日で、しかもうちの家族と温泉なんて大事なこと言われてなかった。


「こっちに遊びに来るついでにうちにも顔だすって言ってて。どうせだったら温泉行こうかって話になったの。あ、ペットが泊まれる宿を選んだから、安心して。幸子さんも車に慣れてきたしね。少し遠出しても大丈夫よ」


得意気に言うけど、幸子さんには悪いけど、心配事はそれじゃない。


「用事あるからいけない」


「用事?何かあるの?」


「バ……バスケの試合見に行くの!」と、強く言った。