船が出航して一時間程経過した頃、葵と美夢は船の甲板に出ていた。
「風か気持ちいいねっ!来てよかったでしょ?葵…」
風になびいた髪を、手でかきあげながら、心地の良い風を、美夢は堪能している。
そんな美夢を見て、葵は言った。
「そうだな…、皆個性が有り興味深い…警部殿に感謝だな」
「そうだね、お兄ちゃんにお土産買って帰らなくちゃ」
葵と美夢が会話をしていると、甲板に歩がやって来た。
「うう…、少し飲み過ぎた…」
歩は少しふらついている。
悪戯めいた表情で、美夢が歩に言った。
「また有紀さんに怒られますよ」
歩は苦笑いして答えた。
「うん、だから有紀から逃げる様にここに来た…。酔い冷しもかねてね」
美夢は歩に言った。
「歩さんて、人見知りとか全然無さそうですね。あの九条さんともすぐに仲良くなったんですよね?」
「俺、あいつが有名人って、知らなかったんだよ…。有紀に聞いて驚いたよ…大臣の息子だろ?」
葵が歩に言った。
「あれだけメディアに露出しているのに…、知らないとは…もしかして…」
美夢は葵が話しているのを遮って、歩に笑顔で聞いた。
「有紀さんとはどういう関係なんですか?恋人同士ではないんですよね?」
ストレートな美夢の質問に歩は不快感を示すことはなかった。
裏表のない美夢の笑顔に、悪意は感じ取れない。歩は少し間を取って答えた。
「一言で言うと…、戦友かな…」
「戦友…、ですか?」
美夢よくわからないと、いった表情だ。
葵が歩に聞いた。
「因みに職業は?世界中を飛び回ってそうですが…?」
歩は目を丸くして言った。
「よくわかったね?!俺、カメラマンでさぁ…、ほとんど日本にいないんだよね。なんでわかったの?」
葵は淡々と答えた。
「やはりカメラマンですか…他の職業の可能性もありましたが…、答は簡単です。まずこの国内で九条司を知らない人間は、いないからです。時の人ですからね…」
更に葵は続けた。
「では、何故知らなかったか…、それはあなたが日本にいないからです。それにそのあなたの日焼けの仕方は、海外転勤のビジネスマンの日焼け仕方ではありません」
歩は頷きながら葵の話を聞いている。
「それとあなたの…その誰とでも仲良くなれるフランクな性格は、コミュニケーションを取り、各国のシャッターポイントの情報を得るには最適です」
歩は葵に言った。
「でもそれだけで俺がカメラマンとは断定できないよ、ジャーナリストかもしれなよ」
葵は答えた。
「断定はしてませんよ。ただ、ジャーナリストなら余計に九条司を知ってる可能性が高くなります…よってジャーナリストではありません。ジャーナリストなら嫌でも現大臣の情報は耳に入ってきますからね」
葵は更に続けた。
「美しい風景や、秘境を撮るのなら九条さんの情報は必要有りませんからね…。ただ、ボランティアや他の職業の可能性も有りましたから、断定はしませんでした」
歩は感心したように言った。
「おそれいったよ!流石、天変…いや、天才月島ってところか…」
葵は偉ぶる事もなく歩に言った。
「カメラマンの可能性が僕の中で高かっただけです。でも、当たって良かったです」
美夢は葵に言った。
「あんた、その人のアラ探しみたいな事するの止めなよ…」
葵は少しムスっとした表情で言った。
「僕はアラなど探してないぞ」
歩が二人を宥める。
「まぁまぁ…美夢ちゃん…、俺は何にも気にしてないよ。でも本当に葵君は凄いよ有紀が興味持つのもわかるよ」
