顔をしかめながら、葵は言った。
「叩くなよ…。でも、美夢の言うように、僕の事も、好きに呼んでください」
三人が自己紹介を済ませた頃合いを図ったかのように、奥にいた歩とは違う、グレーのスーツ姿の男性が近づいて来た。
「君…さっき月島って、名乗ったけど、もしかして月島教授の… 誠一郎(つきしま せいいちろう)さんの息子さんかい?」
葵に話し掛けて来た男性は、背丈は葵と同じ位だろうか、あまり長身ではない。
「ええ…、月島 誠一郎は、僕の父ですが…。貴方のような有名人が、父と知り合いだったとは意外です…。九条 司(くじょう つかさ)さん」
九条 司…。青年実業家であり、経済学者の顔も持ち、テレビの討論番組にたまに出演したりもしている、顔立ちもいいせいか、イケメン実業家として現在世間に注目されている有名人だ。
ただ、注目されている理由は他にもあり、彼の父親と兄は国会議員で、父親に至っては現在の外務大臣 九条 憲治(くじょう けんじ)である。
ただ当の本人には政治に興味はなく、仕事が充実している事もあり、政界進出の予定はないと、テレビでも公言している。
葵もテレビで何度か九条を見たことがあるので、彼の事は知っていたが、父親の誠一郎はともかく、まさか自分の事まで知っているとは思わなかった。
「よく僕が月島 誠一郎の息子だとわかりましたねぇ…、お会いしたことはないと思いますが?」
九条は薄ら笑みを浮かべて、葵に言った。
「僕は学生時代は月島教授の受講生でね、教授には随分世話になって、同時に親しくもなり、家族写真を見せて貰った事があってね…随分大人になったようだか、写真の面影がある。それに…」
九条は何故かもったいぶったように間を取って、言った。
「君は教授によく似ている…。特に仕草や、話し方もね」
すると美夢が、九条に便乗するように、ニヤニヤしながら言った。
「あっ、それ分かります。葵…最近お父さんに似てきたもんねっ。理屈っぽいところがそっくり」
美夢の発言に九条と歩も、クスクス笑っているが、歩とは違い、笑顔でも九条の場合はどこか冷たさを感じるところがある。
歩は九条に言った。
「なぁ、九条…。搭乗客はこの二人で多分最後だぜ。出航前に一度集合した方がいいんじゃない?」
「そうだなぁ、歩の言う通りだな。二人をみんなに紹介するとしよう」
妙に仲の良さそうな、歩と九条を見て、葵は言った。
「お二人は、お知り合いですか?」
葵の問いに歩がニッコリ答えた。
「いや、さっき知り合ったばっか」
