濡れた体には日野くんが着ていたブレザーがふわりと掛けられ、


「わっ………!」


またすぐに腕を引かれた。


なぜこの場所に日野くんが居るのか。そう考えられたのはほんの数秒。

考える暇を与えてくれないほど、わたしの体は簡単に捕まっていた。

ドキンと心臓が弾む音がする。


「っ……」


胸が変に苦しいのは、日野くんがあまりにも力強く抱きしめているせいだ。


「ごめん………」


不意に耳元で囁かれた声。


なんで、急に謝るの。

日野くんが謝るなんて変だよ。

たくさん酷いことを言われたし、せっかく拾ったピアスも窓から投げ捨てられるし。

「ごめん」のひと言では足りないくらいのことをされたと思う。


でも、そんなの今更。

謝ってほしくて近づいたわけじゃないから。


言いたいことは山程あるのにやっぱり言葉にはできなくて。


「濡れちゃうよ……」


わたしは、そんな簡単なことしか言えなかった。