チューニングが終わり、合奏が始まる。 僕は指揮棒をあげた。 ちらっと伊東の顔を見るが、その顔は真剣そのもので、何かあったようには見えない。 今日の練習は、課題曲を九時まで通して終わった。 伊東は最後まで普段と変わらない様子で、合奏をやりきっていた。 「ありがとうございましたー」 みんなが帰るのを見送る。 「もも大丈夫ー?」 「ちゃんと薬飲んで寝なよ?」 伊東を心配する声があちこちから聞こえる。 伊東はそれに手をあげて答えていた。