「じゃ、俺は帰る」


すると一柳くんは、床に置いていたカバンを持つと真っ直ぐ玄関へ向かった。



ちょ、ちょっと!

せっかく副会長になるって言ってあげたのに、お礼も言わないの!?


私は小走りで玄関に向かうと、玄関で靴を履く一柳くんに話しかけた。





「あの…えっと……」


また怒ると疲れて体力を消耗するだけだし、ここは冷静に冷静に!





「…看病してくれてありがとね」


どんな理由であれ看病してくれたことは事実なんだから、ちゃんとお礼を言わないとバチが当たる気がする。





「勘違いしてるなら一応言っておくけど…」

「?」

「俺はお前みたいな女が一番嫌いだから」




は?


ローファーを履いてクルッとこっちを向いた一柳くんは、私を見下ろして眉をしかめながら言った。





「好意でやったとか思うなよ」

「…」


私は返す言葉が見つからず、ただ一柳くんを見上げるしかなかった。




「明日…早速生徒会の仕事があるから、放課後は学校に残れ。忘れたりしたらあの写真ばらまくからな」




パタン…



ゆっくりと玄関の扉が締まる中、私はしばらくその場から動くことが出来なかった…

体はだいぶ楽になっているのに、気持ちは最悪。また熱がぶり返してきたかのように、すごく嫌な気分がしてきた。









「ただいまー……わ!どーしたのあんた!?」


しばらくすると、仕事から帰って来たお母さんがリビングの隅っこで暗い雰囲気を出して座る私を見て驚く。





「一柳くんて男の子から連絡があったわよ。看病してもらったんでしょ?良かったわね~」

「良くない」


私はさっきの一柳くんとの出来事や会話を、全てお母さんに話した。






「あっはは…」

「笑い事じゃないってば!」


先程の一柳くんの事を全て話終えると、お母さんは大笑いしてケラケラと笑った。

私はお母さんの作ってくれた特製うどんを食べながら、ムスッとした顔をする。






「あーおかしいっ…あんた副会長にさせられたの?」

「そうですが?」

「似合わないわね、ククク」


肩を震わせて笑うお母さんに本気でイラっとした私は、ズズズズと思い切りうどんをすする。




「でも一柳くんが困ってるなら助けてあげたら?看病してくれたんだから悪い子ではないわよ。電話でもすごく礼儀正しかったし」

「それはいい子の仮面かぶってるだけ」


あいつの本性は悪魔なんだから!

あの目つきや意地悪そうな顔!思い出すだけでムカツクわ!





「それにお母さんの持ってる本を褒めてくれたしね♪一柳くんも私と同じで読書家って言ってたわ」

「…みたいね」


私は本なんて読まないから、ますますあいつとは合わないな。

これから生徒会でずっとあいつと一緒なのか…考えるだけで憂鬱。





「今度食事にでもお誘いしようか。ちゃんもお礼もしたいし」

「嫌だよ」


あいつと食事なんて…全然楽しくなさそうだし。

それに誘った所で絶対に来なそうだよね。